マゴットセラピーの株式会社バイオセラピーメディカル
エビデンス

文献レビュー

マゴットセラピーに関する主要な文献に対する簡単なレビューです。文献執筆や学会報告の際にお役立て下さい。

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 比較臨床試験 主要文献レビュー                            (最終更新2012年6月15日)
2011 France Maggot therapy for wound debridement
試験デザイン
ランダム化比較試験
症例数
119(最終105)
対象

・下肢創傷
・壊死組織>25%
・ABI>0.8
・深さ<2cm
・面積<40cm2

・平均年齢:73.4
・平均面積:11.4cm2
・平均ABI:1.1
・平均罹患期間:22.7M

サマリー日本語訳

<目的>マゴット療法(バッグ法)と従来治療法とのデブリ効果を比較すること。<デザイン>多施設ランダム化比較試験<設定>カンとリヨンの2医療センター<対象患者>面積40平方センチメートル以下、深さ2cm未満の壊死組織を有する難治性創傷を持つABI>0.8の患者119名<治療介入>2週間の入院中にマゴット療法(2クール/週)か従来の治療(外科的デブリ3回/週)を受け、通常のドレッシング材にて被覆をしたうえで退院、その後15日目に再来院する。<主な効果指標>15日目の壊死組織残存面積の割合<結果>8日目はマゴット群:54.5%、対照群:66.5%で有意差が認められた。15日目の壊死組織残存面積の割合はマゴット群55.4%、対照群53.8%であった。<結論>15日目経過してしまうとマゴット治療は従来の治療と差が無くなってしまうが、最初の1週間まではマゴット療法の方が優れたデブリ効果が見られた。1週間以上マゴット療法を続けるメリットは認められなかったことから、マゴット療法は2〜3クールにとどめ、その後は別のドレッシング法を選択すべきであると考えられる。

訳者レビュー

本臨床試験の対象となった潰瘍は全て静脈性の下肢潰瘍である。2009年に英で行われた臨床試験との大きな違いは、対照となる従来の治療法として行われたのが週3回の外科的デブリであるという点である。この外科的デブリは毎回局麻下に肉芽組織があらわになるまで行われているというのだから徹底したものである。最初の1週間はこの外科的デブリよりもマゴット療法の方が有意に壊死組織を減量させており、マゴットのデブリ能力は特筆すべきものがある。しかしその後の1週間にマゴット療法を2クール行っても、壊死組織の残存量は54.5%から55.4%とむしろ増加したという結果が出ている。このことをもって「マゴット療法は2〜3クール以上行っても無駄である」との結論が本報告ではなされている。壊死組織が増加した原因は定かではないが、1つこの臨床試験で懸念すべき点は、マゴットを留置する方法として、Vitapadを選んでいることである。Vitapadは独の医療用マゴット供給メーカーであるBioMonde社の製品で、バッグの外側が厚さ約1mmのポリビニルアルコールで覆われている。この製品はこの親水性を持つ厚い外壁の創傷治癒効果とマゴットとの相乗効果を狙った製品なのであるが、マゴットの分泌液が創面に到達しにくいというデメリットも生じる可能性もある。(そのせいか、この製品は2012年現在販売はされていない。)もし本試験でこのVitapadではなく、スタンダードな薄いバッグを用いるか、またはマゴットを直接患部に留置する方法(フリーマゴット)を選んでいれば、マゴット療法の効果がより発揮できたのかもしれない。この点がやや残念である。

2009 UK VenUS II: a randomised controlled trial of larval therapy in the management of leg ulcers
試験デザイン
ランダム化3群比較試験
症例数
267
対象

・下肢潰瘍
・面積>5cm2、または面積≦5cm2で難治
・壊死面積>25%
・ABI>0.6

・平均年齢:74.0歳
・平均面積:13.2cm2
・ABPI>0.8:88%
・0.8>ABPI>0.6:12%
・平均罹患期間:7M

サマリー日本語訳

<目的>下肢潰瘍に対するマゴット療法の治療効果をハイドロゲルを用いた標準的な治療法と比較すること。<デザイン>ランダム化3群比較試験<設定>地域看護師サービス対象者、入院患者、クリニック外来患者<対象患者>25%以上が壊死組織にてカバーされ、ABIが0.6以上の静脈・動脈・混合性潰瘍を1つ以上持つ患者267名。<治療介入>フリーマゴット、バッグ法、ハイドロゲル<主な効果指標>第1効果指標:最大の潰瘍が治癒するまでに要した期間。第2効果指標:デブリ完了までに要した期間、QOL、細菌負荷、MRSA、疼痛。<結果>治癒に要する期間は各群間で有意な差を認めなかった。デブリ完了までに要した期間はマゴット使用群が有意に短かった。QOLと細菌負荷は各群間で有意な差を認めなかった。試験前のMRSA保有率は6.7%で治療後にも各群間でその変化に有意さは認められなかった。疼痛の副作用はマゴット使用群で有意に高かった。<結論>マゴット療法は、ハイドロゲルを使用した場合と比べ、壊死組織を有する下肢潰瘍の治癒期間短縮や細菌負荷の減量には効果を示さなかった。一方でデブリまでの期間は有意に短縮された。また疼痛の副作用も有意に高かった。

訳者レビュー

マゴット療法の有効性を評価するランダム化比較試験として最も規模が大きなものである。治癒に要する期間に有意差は認められなかったが、デブリが完了までに要する平均期間はフリーマゴット:14日、バッグ法:28日、ハイドロゲル:72日となり、有意差が認められた。このトライアルに関しては、「マゴット治療群はMDTを行っている間、弾性包帯の使用を中断しているが、ハイドロゲル治療群は中断なしに弾性包帯の使用を続けており、トライアルのデザインに問題がある。」「そもそも静脈性潰瘍の治療としては圧迫療法が第一選択となるべきで、マゴット療法の有効性を評価するトライアルの対象疾患としては適さないのではないか。」というような疑問が呈されてもいる。日本国内ではマゴット療法が用いられるのは、糖尿病性壊疽に代表される難治性創傷が多い。そのような重症例においては自然に上皮化を待つよりも植皮や陰圧閉鎖療法に移行するケースの方が多く、マゴット療法はその前段階のwound bed preparationのためのデブリ法の一つと捉えられている。よってデブリ完了に要する期間が、保存的な方法に比べ半分以下に短縮されることを示した本試験は一定の意義を持つと考えられる。

2009 Malaysia Maggot debridement therapy with Lucilia cuprina: a comparison with conventional debridement in diabetic foot ulcers
試験デザイン
非ランダム化試験
症例数
54
対象

・糖尿病足病変

<除外条件>
・壊疽/膿瘍
・壊疽性筋膜炎
・正常骨/腱の露出
・創からの出血
・ABSI<0.75
・昆虫恐怖症

・平均年齢:55.3歳
・平均ABSI:1.05

サマリー日本語訳

この18ヵ月以上に渡る前向きケースコントロール試験では、糖尿病性足潰瘍対する、無菌処理されたヒツジキンバエ(熱帯クロバエ)の幼虫を用いたマゴット療法の効果を評価が行なわれた。この様な臨床試験は今までヒロズキンバエ(温帯クロバエ)を用いてしか行われていなかった。本試験ではマゴット療法と従来の方法で治療された糖尿病足病変の治療結果を記録した。マゴット療法群29例の内、14例は治癒、11例は治癒せず、4例は他に分類された。従来の治療が行われた対照群30例の内、18例は治癒、11例は治癒せず、1例は他に分類された。両群の治療結果に有意差は認められなかった。この結果から、糖尿病性潰瘍の治療において、ヒツジキンバエを用いたマゴット療法は従来の治療と同等に効果があることが示唆された。マゴット療法は外科手術を行うにはリスクが高い症例、またはそれを望まない症例に対する代替療法になり得ると考えられる。

訳者レビュー

熱帯においてより広く分布するヒツジキンバエの有効性を検討するために行なわれた非ランダム化試験。結果は外科的デブリードマンを含む従来の治療法と同等(有意差なし)の治癒効果がマゴット療法に認められたとなっている。治療効果判定には、介入後にたどった転帰(引き続き行われた治療)をもとにした自己基準が使われており、マゴット療法後に追加で外科的デブリが必要であった症例も一部「マゴット療法効果あり」と判定されている。
「同等の効果しか得られなかったのであれば、何もマゴットなど使わずに従来の治療法でよいのでは?」との疑問が残るが、そこは「外科手術のリスクが高い場合や希望のない場合に使うことができる」と結論付けられている。
治療に用いているハエの種が本邦で用いられているヒロズキンバエと異なることもあり、日本の医療従事者にとってはあまり参考になる報告ではないようである。

2005 USA Maggot therapy in "lower-extrmity hospice wound care" Fewer amputations and more antibiotic-free days
試験デザイン
後ろ向きコホート研究
症例数
60
対象

・糖尿病性足病変
  (神経虚血性)
・自立歩行不能
・血管外科による血行再建が行われていない。
・1つ以上の足動脈の拍動欠損またはドップラーでの検出不能

・平均年齢72.2歳
・平均面積:12.1cm2

サマリー日本語訳

このケースコントロール研究では60名(72±6.8歳)の自立歩行不能な患者(神経虚血性糖尿病性足病変と末梢血管疾患)におけるマゴット療法の有効性を検討した。全対象患者の内27名(45%)が治療後6ヶ月の間に治癒に至った。マゴット療法群で治癒した患者の割合は57%で、対照群で治癒した患者の割合33%との間に有意な差は認められなかった。治癒にまで要した期間は対照群の22.4±4.4週に対してマゴット群は18.5±4.8週で有意に短かった。全対象患者の内約5人に1人が高レベル(足首以上)の大切断を施行された。切断術を受けた患者の割合はマゴット群10%に対して対照群は33%で3倍近くの割合に達した。感染を有する率はマゴット群80%に対して対照群60%で治療前には有意差が認められなかったが、フォローアップの期間中に抗生剤を使用しなかった期間はマゴット群が126.8±30.3日に対して、対照群は81.9±42.1日で有意差が認められた。マゴット療法は歩行不能な糖尿病足病変患者の短期的な有病率を減少させることが示唆された。

訳者レビュー

足病専門医で有名なDavid G. Armstrongの報告。血管病変を有する自立歩行不能な糖尿病足病変を対象としており、その基準は@1つ以上の足動脈の拍動欠損またはドップラーでの検出不能、A血管外科による血行再建が行われている症例は除外、となっている。2009/20011年に英/仏にて行われたRCTとの大きな違いは、前者が対象をABI>0.6/0.8とし重症虚血肢を除外していたのに対し、本スタディーは重症虚血肢に対する効果判定を試みていることである。著者は本論文中で「このような高齢患者の重症虚血肢の治療ににおいては、閉創よりも感染の重症化を防ぎ、高レベルでの下肢切断を防ぐことが最初の目標とされるべきであり、そこにおいてマゴット療法が有用となり得る。」と述べている。本スタディーはレトロスペクティブであることなども含めエビデンスレベルはRCTに比べ劣るが、重症虚血肢におけるマゴット療法の効果を示唆した報告として貴重である。

2004 USAPresurgical maggot debridement of soft tissue wounds is associated with decreased rates of postoperative infection
試験デザイン
後ろ向きコホート研究
症例数
29
対象

・外科手術を受けた慢性創傷

・平均年齢:56歳
・平均罹患期間:25週
・褥瘡:76%
・動脈/虚血性潰瘍:10%
・外傷/熱傷:10%
・術後難治性創傷:10%

<外科手術の内容>
・切断術:17%
・皮弁術:34%
・1次閉鎖術:17%
・分層植皮術:31%

サマリー日本語訳

マゴット療法を受けた患者全員と、マゴット療法を受けなかった類似のグループについて、術後の合併症の有無を調査した。10創に対して外科手術の1〜17日前にマゴットによるデブリードマンが行われた。デブリ効果は全ての症例で認められ、術後に創感染は認められなかった。事前にマゴット療法によるデブリを行わなかった19創の内、32%の6創は術後に創感染を合併した。術前にマゴット療法を行うことによって外科手術に適した創床準備ができ、術後創感染のリスクを減らすことができた。

訳者レビュー

外科手術後の感染合併率という観点からマゴッと療法の効果を検討したスタディー。術前にマゴット療法を行うことによって術後の感染合併を減らすことができると結論付けられている。
ランダム割付ではなく、しかも創の重傷度(サイズ、深さ、末梢循環など)は評価されていないため、2群間の重症度に差が無かったのかどうかが正確に判断できないところが残念。
マゴット療法の後に切断術を行った症例がマゴット療法群で2例、対照群で3例存在し、いずれも術後の感染は起こっていない。これらの症例は「よりよい創床準備のためにマゴット療法を行った」というよりは、「マゴット療法を行ったが期待した効果が得られず、最終的に切断になってしまった」という捉え方の方が妥当で、他の種類の外科手術を行った症例とは少し性格が違うと思われる。そもそも切断術を行う時は、通常創が存在する場所から十分なマージンを取った中枢側で行うため、「術後感染が起こらないのは当然ではないか」との考え方も成り立つ。このような疑念に対しても著者は触れており、これら切断術を行った計5例を両群から除いた場合でも、マゴット療法群で有意に術後感染が少ないことが述べられている。
マゴット療法を行った後21日以上経つと術後感染合併率が高くなる傾向があった。マゴット療法を行った後に次の段階の外科治療に移る時は早期の方が良いということか。
マゴット療法の治療回数は平均9.7クールとかなり多目である。

2003 USAMaggot therapy for treating diabetic foot ulcers unresonsive to conventional therapy
試験デザイン
後ろ向きコホート研究
症例数
20
対象

・下肢糖尿病性潰瘍

・平均年齢:65.5歳
・平均面積:9.8cm2
・虚血性:7%
・神経性:75%
・混合性/不明:18%
・平均罹患期間:9.8M

サマリー日本語訳

<目的>従来の治療が無効な下肢の糖尿病性潰瘍に対するマゴット療法の効果を検討する。<デザインと方法>マゴット療法または標準的な外科的/非外科的療法後の創面積の変化をレトロスペクティブに比較した。<結果>患者18人の難治性潰瘍20の内、6創が従来の方法により、6創がマゴット療法により、8創が従来の方法とその後のマゴット療法により治療された。Repeated measures ANOVAの解析にて、治療方法をfactorにした時のみ、壊死組織の量に有意差が認められた。治療後最初の14日間において、対照群は壊死組織の量に有意な減少は認めなかったが、マゴット療法群は平均4.1平方センチメートルの減少が認められた。治療後5週の時点で対照群は創面の33%が壊死組織に覆われていたが、マゴット療法群は治療後4週の時点で完全にデブリードマンが完了していた。更にマゴット療法群は肉芽組織の増生と治癒速度においても優れていた。<結論>難治性の糖尿病性下肢潰瘍の治療においてマゴット療法は従来の治療よりも効果的かつ効率的であった。

訳者レビュー

2009年の英報告と2011年の仏報告では比較的短期間のデブリ効果までは従来の治療法と比べ優位性を認めたものの、治癒に至るまでの長期的効果になると有意差が認められなかった。一方で本臨床試験では短期のデブリ効果だけではなく、その後の肉芽増生や上皮化の過程においてもマゴット治療が優位性を持つことが示唆されている。この結果の違いが何によってもたらされているのかは定かではない。本試験においてはABIなどの末梢循環の評価が記載されておらず、また”従来の治療”の内容も”外科的なものから非外科的なものまで様々”と記述されているだけで、詳細は明らかになっていないため、英仏の報告との比較がしにくい面がある。
ただし患者の平均年齢が英仏の報告よりも比較的若く、潰瘍のタイプも虚血性よりも神経性の割合が多いことから、このような条件の糖尿病性潰瘍にはマゴット療法がより有効であるということが、この報告より示唆されるのかもしれない。

2002 USA Maggot versus conservative debridement therapy for the treatment of pressure ulcers
試験デザイン
後ろ向きコホート研究
症例数
92
対象

・褥瘡
・少なくとも2週間の標準的治療に反応せず。

・平均年齢:64.1歳
・平均面積:17.8cm2
・ステージV:76%
・ステージW:24%
・平均血清Alb:3.09
・平均罹患期間:8.3M

サマリー日本語訳

マゴット療法の効果と安全性を判定するために、入院患者103人の145の褥瘡が評価された。61創(50人)にマゴット療法が行われ、84創(70人)には他の方法が用いられた。(訳者註:2つの創に対して、一方はマゴット従来の治療、一方はマゴットを受けた患者もいた。)この内デブリードマンと治癒の程度について検討を行なうことができたのはマゴット療法群の43創と対照群の49創であった。結果、マゴット療法群の80%は完全にデブリードマンが完了したが、従来の治療しか行わなかった対照群は48%にとどまった。3週間後に残存した壊死組織の量はマゴット療法群が対照群の1/3で、逆に肉芽組織の量はマゴット療法群が対照群の2倍であった。マゴット療法群の31層は最初従来の方法で治療されていたが、この間壊死組織は0.2cm2/週の割合で減少したが、一方で創面積自体は1.2cm2の割合で増加した。しかしマゴット療法を行っている間は、壊死組織は0.8cm2の割合で、創面積は1.2cm2の割合でともに減少した。慢性化した褥瘡の治療において、マゴット療法は従来の治療に比べ、より効果的かつ効率的であった。また患者は抵抗なしにマゴット療法を受け、有害事象も稀であった。

訳者レビュー

難治性の褥瘡を、従来の治療を続けた対照群とマゴット療法に転換した群に分けてレトロスペクティブに評価した臨床試験。1995年に出された同著者の褥瘡に対する臨床試験よりはエビデンスレベルが高い。
マゴット療法の方が壊死組織の減少と肉芽組織の増加において有意に優れており、更に有意ではなかったが最終的に治癒に至る割合もマゴット群の方が大きい傾向にあった。
そもそも母集団の設定が「2週間の標準的な治療に反応しなかった」であるにもかかわらず、エントリー後に対照群に行われた治療は基本的に「標準的な治療を続ける」となっているため、対照群が不利になるのは当たり前、という考え方も成り立つ。
一方でマゴット療法と他の治療法を比較する臨床試験は下肢病変を対象にしたものが多いため、褥瘡に対する効果を検討した本報告も一定の価値を持つと考えられる。

2000 UK The cost effectiveness of larval therapy in venous ulcer
試験デザイン
ランダム化3群比較試験
症例数
12
対象

・静脈性潰瘍
・動脈虚血は除外

・平均年齢:56歳
・平均面積:17cm2
・平均罹患期間:4.5M

サマリー日本語訳

壊死組織を有する潰瘍の治療には少なからぬ手間とコストがかかる。現時点ではハイドロゲルの被覆を繰り返し行うことがスタンダードな治療法となっている。マゴット療法が潰瘍の壊死組織を取り除くことは症例報告の上で明らかになってきているが、最近の他の治療法との比較検討はまだ行われていない。このスタディーでは、壊死組織を有する静脈性潰瘍に対するマゴット療法とハイドロゲル被覆による治療とを比較した。12人の患者がマゴット療法群と対照(ハイドロゲル)群にランダムに振り分けられた。マゴット療法群では1回の治療で6例中6例に有効なデブリ効果が認められた。一方でハイドロゲル群においては1ヵ月経った時点でまだ6例中4例においてハイドロゲル被覆による治療が必要であった。かかった治療費の中央値はマゴット群が78.64ポンドであったのに大対し、対照群では136.23ポンドであった。このスタディーでは壊死組織を有する静脈性潰瘍に対するマゴット療法の臨床効果と費用有効性が確認された。

訳者レビュー

マゴット療法と標準的な治療にかかるコストを比較する目的で実施されたRCTで、30日の観察期間にて評価がなされている。デブリ効果に関しても記述があり、マゴット療法の有効性が示されている。治癒(閉創)に関する効果は述べられていない。
コストの面でも優れていることが示されているが、本邦の場合は状況が違うため、この事実をそのまま当てはめることはできない。本スタディーにおいては6症例全てにおいてマゴットの費用は58ポンド(2000年当時のレートで約9,300円)となっているが、本邦の場合、1回の治療にかかるマゴットの費用はこの数倍になるためである。
いずれにしてもマゴット療法に対して初めて行われたRCTとして記念すべき報告である。

1995 USA Maggot therapy for treating pressure ulcers in spinal cord injury patients
試験デザイン
自己対照試験(時間シリーズ研究)
症例数
8
対象

・褥瘡
・脊髄損傷合併
・骨髄炎と急性期蜂窩織炎は除外

・平均年齢:58歳
・平均面積:13cm2
・ステージU:2例
・ステージV:3例
・ステージW:3例
・平均血清Alb:3.54

サマリー日本語訳

何世紀にもわたってマゴット療法は創傷治癒の補助療法として認識されてきた。昔の医師達はクロバエの幼虫を創ドレッシングの中に入れることで、効果的なデブリードマンが得られ創傷治癒が促進されることを報告していた。今回我々は脊髄損傷患者の褥瘡に対するマゴット療法の有用性を評価するために前向き対照研究を開始することにした。8人の患者が従来の治療(前医で行われていた治療)の効果を評価された後、マゴット療法を受けた。創面積、組織の性状、治癒速度が毎週評価された。マゴット療法によりほとんどの壊死組織が1週間の内に取り除かれ、これは他のどんな非外科的手技よりも早かった。治癒に関しても、先行した従来の治療よりもマゴット療法の方が早かった。マゴット療法による合併症は認められなかった。今回のスタディーより脊髄損傷患者の褥瘡においてマゴット療法が有用であることが示唆された。マゴット療法は現在行なわれている従来の治療よりも有意に効果的かつ効率的であった。またマゴット療法は安全かつ簡便で、安価な治療でもある。マゴット療法は褥瘡治療において有用な治療法の1つになり得ると思われる。

訳者レビュー

いったん廃れたマゴットセラピーが現代医療で再び見直されるきっかけにもなった報告である。症例数が少なく、自己対照試験ではあるものの、褥瘡に対する初めてのコントロール試験であったことでも一定の価値が認められる。2002年に同著者により、更にエビデンスレベルが高い褥瘡を対象とした報告が出ている。


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