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エビデンス

文献レビュー

マゴットセラピーに関する主要な文献に対する簡単なレビューです。文献執筆や学会報告の際にお役立て下さい。

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 ケースシリーズ研究 主要文献レビュー                        (最終更新2012年6月15日)
2007 Netherlands Maggot debridement therapy of infected ulcers: patients and wound factors influencing outcome - a study on 101 patients and 117 wounds
試験デザイン
ケースシリーズ研究
症例数
101
対象

・壊死組織や壊疽を伴う感染創

・平均年齢:71歳
・平均罹患期間:7.2M
・下肢虚血合併率:52.5%
・糖尿病合併率:45.5%

サマリー日本語訳

<序文>マゴット療法は何世紀にもわたって壊死組織を取り除く有効な方法として知られている。2004年1月には米国FDAがマゴット療法を管理することを決めた。一方でどのような創が本療法に適し、どのような創が適さないのかが依然として不明確であることから、治療結果に影響を及ぼす患者や局所の因子を探るために前向きのスタディーを行った。<対象と方法>2002年8月から2005年12月の間に、壊死組織や壊疽を伴う感染創を有し、マゴット療法の適応だと思われる患者が本スタディーにエントリーされた。<結果>全対象の内、72人(71%)がASAVまたはWに分類され、116創の内78創(67%)において改善が認められた。内訳は完全治癒60創、ほぼ治癒12創、デブリまでは完了6創である。この成績はこれまで文献に報告されているものとほぼ同じとなった。外傷が原因となった24症例は全例が完全に治癒した。一方で感染性関節炎を伴っていた創13例は全例が失敗に終わり、その内半数が大切断に至った。多変量解析の結果、慢性下肢虚血、創の深さ、高年齢(60歳以上)が治療成績に影響するネガティブ因子として挙げられた。性別、肥満、糖尿病、喫煙、ASA分類、創の存在部位、創のサイズ、罹患期間は治療成績に影響を与えていなかった。<結論>いくつかの患者背景(性別、喫煙の有無、糖尿病の有無、ASA分類)と創の背景(存在部位、罹患期間、サイズ)は、特にマゴット療法を行うにあたって禁忌とはならないようであった。一方で患者が高年齢である場合や慢性下肢虚血を合併している場合、創が深い場合などは治療効果が得られにくい傾向が見られた。感染性関節炎はマゴット療法の適応とはならないと考えられる。

訳者レビュー

ケースシリーズ研究の中では最も規模が大きなもので、治療成績に影響を与える因子をあぶりだしている。
外傷後の感染創24例全てに対して効果を示しているが、これはおそらく創形成の原因として局所の虚血が背景にあまりないことが理由と考えられる。そしてそれを裏付けるように、治療成績に影響を与えるネガティブ因子として虚血が挙がっている。下肢虚血の判定基準は「足動脈の拍動欠損、またはABI<0.6、または足関節血圧<50mmHg」となっており、一般的に創傷治癒の機転が働くためのボーダーラインと考えられているものと大きな違いはない。よってマゴット療法が他の治療方法に比べてより重篤な虚血創に使うことができるのかどうかは、このスタディーの結果からは推し量ることはできない。
明らかにマゴット療法の適応とはならないとの結果が出たのは感染性関節炎で、その理由として「マゴットは呼吸ができない関節深部まで潜り込んでデブリを行うことがない」ことが挙がられている。やはりこの様な深い感染を伴う症例を治療する場合は、マゴット単独では荷が重く、感染が及んでいる深部まで切開を加え洗浄を行うなどの外科処置を事前に加える必要があると考えられる。もっともこのような処置を加えたからといってどれくらい治療成績が向上するかは定かではないが。
創の深さもネガティブ因子に挙がったのも上記と同じ理由で、マゴットが深部まで入り込んでいかないことが理由としてある。また、マゴットは骨や腱などの硬い組織を食べることができないことも理由として考えられる。
創のサイズが治療成績に影響を及ぼさなかったことは意外にも思えるが、創が広ければ広いでその分多くのマゴットを投入すれば、デブリ効果は確実に得られるということであろう。(このスタディーでは閉創まで至らずとも、デブリが完了していれば効果があったと判定されている。)
糖尿病はネガティブ因子とは判定されなかったが、P=0.066であるため注意は必要である。
同様にバッグ法が選ばれた症例は、マゴットが直接置かれた創よりも治療成績がやや悪い傾向も認められている。バッグ法はデブリの範囲が限定され、しかもそのスピードも遅くなるために、症例を選んで使用する必要がある。
このスタディーでは他と違って、治療に使用したマゴットの匹数や治療回数が記載されている。1回あたりの使用匹数は85匹で、1症例あたり平均2.4回の治療が行われている。創の平均サイズが明記されていないため何とも言えないが、1回あたりの使用匹数は本邦の標準に比べるとやや少ない印象を受ける。

2007 Netherlands The results of maggot debridement therapy in the ischemic legs: a study on 89 patients with 89 wounds on the lower leg treated with maggots
試験デザイン
ケースシリーズ研究
症例数
89
対象

・下肢慢性創傷
・膝上に位置する創は除く。

サマリー日本語訳

マゴット療法は効果的なデブリ法であるが、虚血を有する患者での治療成績は悪く、虚血を伴う潰瘍にはマゴット療法は行わないという方針のクリニックもある。しかしその場合残された道は下肢切断だけという場合もある。このスタディーでは血流障害を持つ症例はそうでない症例に比べて有意にマゴット療法の結果が悪い傾向にあった。しかしながら血流障害を有する症例でもその52%において良い結果が得られた。内訳は血行再建により血流が改善した症例で68%、血行再建を行っていない症例で41%である。マゴット療法の成績は虚血肢においてより悪くはなるが、だからといって虚血を有する症例が本療法の適応にならないという訳ではない。

訳者レビュー

2007年もう一つのスタディーとほぼ同じ著者による、末梢循環に焦点を当てた分析。試験期間も重なっているためにおそらく対象患者もかなり重なっていると推測される。
下肢虚血の判定基準は「足動脈の拍動欠損、またはABI<0.6、または足関節血圧<50mmHg」となっている。
結果、虚血を有しない患者、血行再建が成功した患者、虚血が現存する患者の順に治療成績が有意によいとのこと。当然と言えば当然の結果か。
他の治療と比較しマゴット療法がより重篤な虚血に対しても使うことができるかどうかは、このスタディーより判断することができないが、虚血の判定基準と、治療成績がはっきりとした数字で示されていることが他のスタディーよりもありがたい。例えばこのデータを用いて、あるABI<0.6の虚血を有する患者に「マゴット療法を行った場合の成功率は約40%とのデータが出ている」との説明を行うことができるかもしれない。

2003 Sweden Larval therapy - an effective method of ulcer debridement
試験デザイン
ケースシリーズ研究
症例数
74
対象

・黒色壊死または黄色壊死を伴う慢性潰瘍

・平均年齢:72歳
・動脈性:51%
・静脈性:14%
・混合性:7%
・褥瘡:7%
・糖尿病神経性:5%
・骨髄増殖・異形性:3%
・皮膚悪性腫瘍:3%
・放射線治療後:3%
・血管炎:1%
・カルシフィラキシス:1%
・壊疽性膿皮症:1%
・感染後黒色潰瘍:1%

サマリー日本語訳

古来よりマゴット療法は創傷治癒を助けるものとして知られていた。近年その効果が見直され始めてきており、臨床の場だけでなく基礎研究の場においても大きな注目を浴びている。今回我々は74名の成因の異なる黒色壊死または黄色壊死組を伴う慢性潰瘍に対するマゴット療法の効果をオープン試験にて検証した。結果、86%にて有効なデブリ効果が得られ、その3分の2の患者において1回の治療で効果が得られた。デブリ効果が得られなかった症例ではマゴットが死滅していた。潰瘍の種類による治療効果の差は認められなかったが、糖尿病患者29名に対しては全例特筆すべき効果が得られた。成因の異なる31例の潰瘍において悪臭が認められていたが、その内58%においてその悪臭を減少させる効果があった。問題となるような副作用は認められなかった。対象患者の4分の1が治療中の疼痛減少を実感したが、一方で41%は特に違いを感じず、34%の患者は疼痛の増強を認めた。しかし多くの患者は主・客観的に患部のデブリードマンが進んでいたため、治療の継続を希望した。この臨床試験を通じてマゴット療法は、簡便で患者にも受け入れられ易い潰瘍デブリードマンの方法であることが実証された。

訳者レビュー

74名のケースシリーズ研究で、86%の症例において有効なデブリ効果が得られたことが報告されている。一方で「潰瘍の成因とデブリ効果の間には特別な関連を見い出すことができなかった」と記述があり、また患者背景や効果判定基準、アウトカムの詳細が記載されていないため、肝心の治療効果に影響を与える患者/局所因子についてあまり有用な情報はこの報告からは得ることができない。
10症例が無効で、その原因はマゴットの死滅と記載されているが、その死滅の原因があまり分析されていない。ただ、黄色壊死を伴う5例が全てが失敗に終わったと記載がある。このような潰瘍のデブリにはマゴット療法は向いていないのか。一方で糖尿病患者の潰瘍においては特によいデブリ効果が得られたとの記載もある。この「糖尿病患者の潰瘍」が、4例(5%)の「糖尿病神経性潰瘍」を指すのであれば納得もできるが、この部分についても詳細な記述がない。
72%の患者は1クールで治療が終了しており、平均の治療回数は約1.4クールと推算することができる。2007年オランダの試験2.4回よりも少ない。この違いがどこからきているのかは不明。

1999 Israel Maggot therapy for the treatment of intractable wounds
試験デザイン
ケースシリーズ研究
症例数
25
対象

・非糖尿病性潰瘍

・平均年齢:64.9歳
・静脈うっ滞12名
・対麻痺5名
・片麻痺2名
・バージャー病1名
・リンパうっ滞1名
・基底細胞癌1名

サマリー日本語訳

<背景>ハエの幼虫がデブリ効果を持ち創傷治癒を促進することは何世紀も前から知られていた。米国では1931年にマゴット療法が始まり、1940年代半ばまでに300以上の医療機関にて日常的に使用されるようになった。その後抗生物質の登場によってその利用は稀になったが、1990年代の始めに米国、英国、イスラエルにて再び実施されるようになった。この臨床試験ではイスラエルにおいて難治性の慢性創傷/潰瘍において長期入院を余儀なくされている症例に対するマゴット療法の効果を検証する。<方法>慢性下肢潰瘍または仙骨部褥瘡に苦しむ患者25名に対してヒロズキンバエの幼虫を用いたマゴット療法がオープン試験にて試された。マゴット療法を行う前の罹患機関は1-90ヵ月。35創は足またはふくらはぎ、1創は第1指に存在し、褥瘡は腰背部に位置していた。無菌処理された50〜1000匹のマゴットが1回に1〜2日、週に2〜5回のペースで患部に置かれた。入院患者はイスラエルのハダサ病院の5つの病棟、2つの老年病院または1つのクリニック外来にて治療を受けた。創の成因は静脈うっ滞12名、対麻痺5名、片麻痺2名、バージャー病1名、リンパうっ滞1名、基底細胞癌1名であった。患部は完全にデブリが完了されるまで毎日または1日おきに評価された。<結果>デブリードマンは38創(88.4%)で完全に完了、3創(7%)で有意、1創(2.3%)で部分的な効果、1創(2.3%)で効果なしとなった。5人の患者は下肢切断の適応と診断されていたが、マゴット療法施行において救肢が可能となった。<結論>マゴット療法は比較的早く、効果的なデブリードマンが可能な治療である。特に従来の治療や保存的外科デブリードマンが効果を示さない壊死組織を伴うサイズの大きな創において有用性があると考えられる。

訳者レビュー

28名43創に対して行われたケースシリーズ研究で、完全なデブリ完了と有効なデブリが認められた症例を合わせると95.4%と優れた結果が得られている。
患者背景や効果判定基準、アウトカムの詳細が記載されていないため、肝心の治療効果に影響を与える患者/局所因子についてあまり有用な情報はこの報告からは得ることができない。
他の報告と比べると治療成績が良いように見えるが、この要因は定かではない。ただし治療方法の記載に「マゴットを24〜48時間毎に交換し、週2〜5回の治療を行った」とあり、もしかするとこの短いスパンで治療を行っていることが治療成績の向上に結びついているのかもしれない。イスラエルでは大学の研究室で医療用マゴットの製造が行われており、このことが大学病院での容易かつ安価なマゴットの入手を可能にしているものと考えられる。
平均の治療期間は10日との記載があるが、平均の治療回数については記載されていない。


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